あの女は消えた。
「で、お前は何の目的は何なんだ、ラビット?」
 ラビット。この名前にキカが構える。
「何にもしないわよ。」
 キカを見て微笑むがキカの緊張は解けない。
「ユイン様。」
 俺も剣から手を離してはいないが、ラビットの速度には勝てるとは思えない。
「ふぅ、まずはお互い話しましょう。」
「そうだな。」
 再び東屋に集合。
「まずは彼女の事を聞きたいんだけど。」
 レオンを見る視線は優しい。が、その周りにいる俺とキカがそれをさせない。
「そんな怖い顔しなくてもいいじゃない。」
「自分が何をしたのか……忘れたのか?」
 震えるキカの声、その目は怒りを抑えている。
そのキカの視線を正面から受け止めるラビット。
「具体的に言ってらえるかしら?」
「パッフェ卿の事だ。お前が殺した。」
 空気が凍る。
「あの方は俺達にとって恩人だったんだ。それをっ!」
 今にも飛び掛りそうなキカ。
キカの言葉を受け、
「そう。」
 とだけ答えた。沈黙が降りる。
キカは怒りに耐えているし、俺も冷静になって色々と聞きたいがパッフェ卿の事が引っかかる。
レオンやロナは俺達を不安そうに見ている。
いつまでもここにこうしているわけにもいかないし……。
「あの……。」
 レオンが口を開いた。
「その剣でどうして……。」
 一瞬の躊躇い。そして、
「カケラを斬れたんですか?」
 ラビットは剣をテーブルに置き、
「この剣は失われた遺産、私達はロストフォースって呼んでるんだけど、それでこの剣を鍛えたの。」
「お前ロキオンか?」
 俺の問いにひらひらと手を振って答える。違うという事だろう。
「ロストフォースって超金属の事だろ、それが何でロキオンでも無いお前が持ってる?」
「世界は広いのよ王子サマ。ロキオンだけが神秘に近づいてる訳じゃないわ。」
「確かパッフェ卿はロキオンに近かったな。お前はそれが目的でパッフェ卿を。」
「それだけじゃないけどね。」
 一瞬目が合う。俺に関する事なのか……?
「じゃ私からの質問、さっきその子は何者?」
 その子とはレオン。
「さっきの戦闘でもあの狐を倒してたみたいだし。」
 良く見ているな。俺は近くに居たがレオンを見ているとは思わなかった。
ま、トドメはレオンが刺すからどの道ロナには説明する事になるんだが。
でも何と言って説明したものか……イコの従者だとか言っても信じないだろうし。
あーでもロストフォースなんて古代物持ってる時点で信じるかもしれないなぁ。
なんて考えてるうちに、
「私はイコ様の指示を受けて今も各地に残るカケラの討伐をしてます。」
 下手に隠すより良いとは思うが、信じろって言う方が無理だよな。
きょとんとしたラビットとロナ。
疑っている様子も無く、あ〜そうだったんだ〜、みたいな顔。
「じゃこの森には?」
「それは……。」
 討伐隊の事を話す。
「ふーん、でそのカケラってのが討伐隊に悪さしたと?」
「おそらく。」
 二人の間で会話が続いていく。
「で、その事はロキオンに?」
「いえ、カケラの事はあまり知られる訳には……。」
「賢明ね。ロキオンには言わない方が良いわ。」
「お前等には知られたがな。」
「私も言わないわよ。」
「ふーん。」
「何よ?」
「いや、組織だって事は認めるんだな。」
 驚いた顔のラビット。
「ん〜、まぁね。でもどこの組織かは言えないわよ?」
 口に指を当てて茶化そうとしている所が可愛い。が、油断は出来ない。
「じゃ行きましょうか。」
 ラビットが立ち上がる。
「どこへ?」
「決まってるでしょう、悪さの元凶カケラの元。」
 一同揃って、
「「「「は?」」」」
「私も今は任務とかじゃないし、それに切り札は多い方がいいでしょう?」
 剣をぐっと突き出す。
「その前にお前がこの森に来た理由を教えろ。」
「気紛れよ。」
「信じると思うのか?」
「それはアナタの自由よ。さ、行きましょう。」
 歩き出すラビットの背中を見ている。
「どうします?」
 キカは睨むようにその背中を見ている。
「どうするって……行くしかないだろう。」
「私は、」
「お前の気持ちも分かるよ、でもあの力は必要だろ。」
 俯くキカ。
「今はそう割り切って行こう。」
 キカの肩に手を置く。微かに震えている。
気が向かないのは俺も同じ。しかしレオン一人に負担をかけるよりはマシだと思おう。
「……分かりました。でも、何か不振な行動をしたらその時は。」
「心配するな、その時は俺がやる。」
 ラビットは少し先、坂の上からこっちを手招きしている。
「ちょっと早く来てよ、寂しいじゃない!」
「うるさい、お前が先に行ったんだろ!」
 腰に手を当てて立っている。おそらく頬も膨らませているに違いない。
「さ、行こう。討伐隊が待ってるしな。」
 ええ、とうなづくレオンとロナ。

奇文屋TOPに戻る。